ロバート・チャールズ ウィルスン「時間封鎖」

読み始めると止まらない。睡眠時間を削るだけの価値がある本。

時間封鎖〈上〉 (創元SF文庫)

時間封鎖〈上〉 (創元SF文庫)

本の裏の紹介文だと、特定の人物にフォーカスをあわせない物語のように見えるが、実際には主人公「タイラー」と周囲の人物を中心に物語は展開する。

ある夜、空から星々が消え、月も消えた。翌朝、太陽は昇ったが、それは贋物だった…。周回軌道上にいた宇宙船が帰還し、乗組員は証言した。地球が一瞬にして暗黒の界面に包まれたあと、彼らは1週間すごしたのだ、と。だがその宇宙船が再突入したのは異変発生の直後だった―地球の時間だけが1億分の1の速度になっていたのだ

界面を作った存在を、人類は仮定体(仮定上での知性体)と名づけたが、正体は知れない。だが確かなのは―1億倍の速度で時間の流れる宇宙で太陽は巨星化し、数十年で地球は太陽面に飲み込まれてしまうこと。人類は策を講じた。界面を突破してロケットで人間を火星へ送り、1億倍の速度でテラフォーミングして、地球を救うための文明を育てるのだ。迫りくる最後の日を回避できるか。

この紹介文から、映画『アルマゲドン』のようなハリウッド的な展開を予想していたが、全然違った。物語は、40年後(宇宙は40億年経過)の世界と、主人公の幼少期〜40年後までを交互に描きながら進む。主人公が核爆弾を持って特攻して、世界を救ったりはしない。


主人公の立ち位置が良い。
彼の周りには、地球を封鎖した存在を解明するべく、火星に人類を送り込む最前線で戦う人々がいるのだが、医者である主人公は基本的に蚊帳の外。だけど、幼少期からの友人が一般人が知ることの出来ない情報をちょくちょく教えてくれるのだ。
こういう物語では、主人公は事件の最前線に立っていることが多いが、こういう客観的な視線で描かれていると、本当に世界が滅びようとしている、その場に立ち会っているような錯覚を感じることが出来る。


時間封鎖を逆手に取った火星のテラフォーミング計画のあたりが最高に盛り上がる。
多少強引な気もするが、あっという間(なにしろ1億倍だ!)に人類が定着するスピード感はすごい。


最後のほうのミステリーで言う謎解きのあたりは少し急ぎすぎに感じた。
仮定体の正体と時間封鎖(スピン)の必要性も説明されるのだが、どうも納得しきれない感じ。仮定体の仕事が中途半端に感じる。(物語の中で、人類が想像できない仮定体の目的があるのかもしれない、とは書かれているが。)